認証基盤のオープン化が移動通信事業のスケーラブル化に与える影響の分析

次は最近、私のところで博士をとった梅嶋真樹君の博士論文審査要旨です。いずれ大学のサイトで公開されるものですが、地域におけるインフラ整備のあり方や、通信産業の競争政策に大きな意味があるように思うので、先行して、ここで開示いたします。ご一読いただけたら幸いです。

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梅嶋真樹君論文審査の要旨及び担当者


タイトル:認証基盤のオープン化が移動通信事業のスケーラブル化に与える影響の分析

主 査 政策・メディア研究科委員 兼 総合政策学部教授 國領 二郎
副 査 慶應義塾大学 名誉教授 小檜山 賢二
副 査 政策・メディア研究科委員 兼 環境情報学部教授 村井 純
副 査 政策・メディア研究科委員 兼 環境情報学部教授 中村 修
副 査 政策・メディア研究科委員 兼 総合政策学部教授 飯盛 義徳

 梅嶋真樹君の学位請求論文は「認証基盤のオープン化が移動通信事業のスケーラブル化に与える影響の分析」と題し七章より構成される。

 総務省は2008年に地域が(大手通信事業者に依存することなく)自律的に広帯域移動無線アクセス(Broadband Wireless Access以下BWAと略す)を整備できるようにすることを目的として、地域BWA無線免許制度を創設した。同政策は人口カバー率というキャリアの整備目標では切り捨てられてしまいかねない、過疎地域のインフラストラクチャ整備に道を開くものとなっている。本研究はその制度を活用した地域インフラストラクチャ整備に主体的に参加しつつ、BWA事業のスケーラブル化の要件を検証したものである。なお、本論文における、移動通信事業のスケーラブル化とは、「技術的にも経済的にも自律した小規模移動通信事業の相互接続による広域運用」可能化を意味している。
 より具体的な研究手順としては、理論及び先行してスケーラブル化が実現していたWi-Fi整備 の分析を通じて、スケーラブル化の要件として、(1)インターフェースのオープン化、(2)接続不保証(ベストエフォート)な通信品質、(3)認証基盤のオープン化、(4)低コストの相互接続ネットワークの存在、という四つを抽出し、その四条件を満たす地域BWA事業を沖縄県伊江村と、愛媛県愛南町において設計・運用しスケーラブル化が再現されるかを検証している。結果として、2016年12月時点で四条件が達成され、自律的な運営が可能な状態が作られたことで、スケーラブル化が達成されたと評価できる状態が作られた。
 ところが、本研究を推進している間に発生した相次ぐテロを背景に、世界的にセキュリティへの関心が高まって、利用していたWiMAXの後継技術に、大手事業者の加入者認証設備に依存せざるをえないオープン性の失われた標準が採用された。結果として新技術が普及するにつれてスケーラブル化が後退する現象に直面してしまった。図らずも、通信サービスを行う上で必須の資源が独占、あるいは寡占から開放されていることを競争成立要件とする本研究が依拠した(産業組織論をベースとする)エッセンシャル・ファシリティ論の的確さを示すことになった。セキュリティ方式の選択によって加入者認証設備という新しいエッセンシャル・ファシリティを生み出すことがあるという、新しい発見をもたらしたということもできる研究となっている。

 本論文の各章の内容は以下のとおりである。
 第一章では、地域の自律的なBWAインフラストラクチャ整備を促す政策の説明と、それが理論的にはスケーラブル化の実現を意味していることの説明が行われている。
 第二章では、電気通信事業における競争政策の歴史の中で練られてきた、情報通信産業における競争可能性の理論研究の紹介が行われ、エッセンシャル・ファシリティ論とスケーラブル化との関係や、システム論をベースとする、自律分散協調モデルとスケーラブル化の関係について理論的な整理が行われている。
 第三章では、第二章で検討した理論を踏まえつつ、一足先にエリアカバレッジが狭いという短所を持ちながらもいち早くスケーラブル化を実現したと考えられるWi-Fiを題材に、情報通信インフラストラクチャのスケーラブル化の技術および事業設計上の要件の洗い出しを行っている。
 第四章ではWi-Fiでの検討を踏まえて、スケーラブル化されたBWAを実現するための、要件を特定している。すなわち上記の、(1)インターフェースのオープン化、(2)接続不保証(ベストエフォート)な通信品質、(3)認証基盤のオープン化、(4)低コストの相互接続ネットワークの存在、の四つである。これが実践活動の指針ともなり、研究上の仮説ともなった。
 第五章では、四つの要件をいかなる技術と事業設計で、実際のBWA事業に組み込んだかが解説されている。これはBWAのスケーラブル化が空想ではなく、実現可能であることを示す役割を果たしている。
 第六章では、開発した技術体系にもとづいて、沖縄県伊江村と愛媛県愛南町で実際に展開した模様とその結果を記述している。実際のシステムの技術的運用可能性や経済性はそれぞれの現場の気候等の地理的条件、そして自治体の経済状況などによって左右されるが、結果としていずれの地域においても、スケーラブル化されたBWA事業がいったんは成立したという結果を得た。なお、成立したという評価の基準としては、(1)外部接続以外については外部資源に依存しない運営が可能となる自律的な技術を実際に動かした、(2)利用者が汎用的なデバイスで利用することを可能とした、(3)年額100万円程度の収入で事業継続が可能であることを実証した、(4)小規模BWA事業の相互接続による広域運用を実証した、という四つの基準が適用されたことが報告されている。
 本章ではさらに、一旦、達成されたスケーラブル化が、認証基盤のオープン性が失われることで損なわれてしまった事実の報告がなされている。すなわち、本実証研究において採用したWiMAX技術の後継技術(WiMAX2)が、大手事業者の加入者認証設備とそれに紐づけられたSIM(Subscriber Identity Module)カードの配布を必要とする標準として採用したために、新技術の採用が進むにつれて地域事業者の自律的運営が技術的、経済的に困難になってしまった。理論による予測が見事に再現されたともいえるが、事業としては先が見通せない結果となった。
 第七章においては、研究開始時点では想定していなかった、セキュリティが新しいエッセンシャル・ファシリティを生み出して、地域の主体性に基づく自律的なBWAインフラストラクチャ整備を阻害する現象を中心に、本研究の含意について検討している。実際にスケーラブル化が損なわれてしまった現実を受け入れた上で、梅嶋君はセキュリティへの要請が、必ずスケーラブル化を壊すものでしかありえないのかを問うている。そしてハードウエアSIMと高価な加入者認証システムという組み合わせが、セキュリティを実現するために唯一の方式ではなく、他のスケーラブル化を損なわない方式がありえて、世界的にはその普及の機運があることを示している。そのような方式が、BWA事業に再度スケーラブル化をもたらしうるかについては、今後の展開を見守ることとなる。
付言するならば、恐らく梅嶋君は単に見守るだけでなく、今後もそれを証明する実践的研究を行うこととなると思われる。それは何より、地域が国や大手キャリアの方針に縛られることなく、自律的にインフラストラクチャを整備できる状態を作るという、もともとの政策や、それに共鳴して行動を起こした同君の理念を諦めずに実現する研究となる。

 本研究は、社会にとって重要なテーマについて、確固たる理論的な基盤のもとに、問題解決の視点と方法を提示し、それを単に観察だけではなく、実践を通じて検証を行っていく、実践知を重視する総合政策学の理想を体現するものとなっている。最終的な理念の実現という観点からは、道半ばともいえるが、ここまでの研究から得られた理論的、実証的な結論は今後の政策や事業設計に大きな意味を持つものとなっており、このタイミングでの博士号授与に相応しいものとなっている。特に、セキュリティを実現するシステム設計いかんによって、新しいボトルネック独占・寡占が生まれる認識を得たことは、情報通信業界の産業構造論に新しい断面を加えたものだと評価できる。

 このように、本研究は著者本人だけでなく、総合政策学研究に新たな発展の可能性を与えたものと評価できる。よって、本論文は著者が研究者として自立した研究活動を遂行するために必要な研究能力と学識を有することを示したものといえ、本学位審査委員会は梅嶋真樹君が博士(政策・メディア)の学位を授与される資格があるものと認める。


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ITによる資産収益率の向上

旅館業法のことなどが、別所さんの記事がきっかけで話題になっていて、私も思うところあります。そこで、平成26年6月13日に自民党の情報産業振興議連で話をさせていただいた時のレジュメを皆様にもご覧いただきたくアップします。

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今後のICTの動向~2020年、そしてその向こうへ~

1. 2020年をターゲットとして、日本に世界に誇れるICT利活用社会を作る。但し、それは「2020年後の世界」に対する解決を指し示すものにしなければならない。ICTの力で安心して暮らせて、活力もある長寿社会の姿を見せたい

2. ICTを成長に結びつけるために、新しいビジネスモデルを認知し、育てるべきである
・カーシェアなどに象徴される、(消費者が)所有せず利用するビジネスモデルが拡大する。産業側から見ればサービス産業
・背後にあるのが、全てのヒト、モノをつなぐネット。あるモノを何時、何処で、誰が、使っているかが把握できる。これによって、19世紀に大量生産大量販売経済が始まって以来の「匿名の消費者に対してモノの所有権(全面的支配権)を移転させて、対価として現金を受け取る」売り切りモデルから解放される。かわりに、モノの利便を、必要な時にだけ貸し出すライセンスモデルの合理性が高まる
・大局的に言えば、資産活用(資産収益率の拡大)がゴールとなる。持てる資産を多重活用して収益率を上げる。収益率の拡大がひいては投資の拡大につながるシナリオ。収益率が低い中で資本コストを下げることで投資を促す金融的手法にいつまでも頼るわけにいかない
・ヒト(人的資産)の活用も進めたい。人手不足の中で、子育て中の女性の在宅勤務などを進めたい。
・個人が持っている不動産をネットで貸し出すなどのサービスも活用したい。オリンピックの一時的宿泊需要を既存ホテルの更新に利用するのは良いが、中長期的に見込める需要以上にキャパを増大させると後からショックが来る。一時的超過需要はネットを活用した新しいホームステイモデルなどで満たしたいのでは?
・必要な規制改革を進めたい。対面原則など「外形」での規制をやめ、必要な要件でルールづくりを。「伝達すべきは伝達せよ」という規制なら生産的な話が始まる。「対面でなくてはダメ」という規制では非生産的な議論が続く

3. ゴールに向けて、安全と自由との矛盾を克服して、迷いなく情報化に邁進できるようにしたいし、できる
・基本はアクセスする個人を識別し「守られるべき人は守り、自己責任で自由に使いたい人は自由に使える」ネットの構築。識別子に対して属性を返す(例えばIDxxxの人は確かに18才以上であることを示す)基盤が必要。法律などで国による確認を求めるサービスに対しては国の責任でオンライン提供する

4. 成長戦略としても、安全保障政策としても世界を見据えたものとしたい
・つながる人が増えるほど価値が増大するネットワーク経済の中で、市場は確実にグローバル化する。ガラパゴスサービスは生き残れない
・オリンピックなどでも、世界の成長力を日本に呼び込む政策をとるべき。たとえば、アジアに育ちつつあるベンチャーにオリンピックの場で世界マーケットに出る道を作りたい。シリコンバレーにはない、インフラ連動型のサービスを試す機会を提供するなど
・インターネットのガバナンス問題などで、国家コントロールを主張する中国などと、自由な利用を主張する米国などの間で、激しいせめぎ合いが起こっている。情報を制するものが世界を制するという理解のもと、日本として国際ルールの形成にしっかり関与していきたい。

以上

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「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」終了にあたって

 耳目を集めた薬のネット販売検討会が終わりました。

 事実上の解禁状態でネット販売が進行している中で、ルールづくりが急がれたのですが、「正しいネット販売のあり方」の議論ではなく、「ネット販売をさせるかしないか」の議論に終始してしまいました。ルールづくりがほとんど出来ずに終了してしまったことに、メンバーの一人として深い責任を感じています。

 このまま放置してはいけません。何より問題は、ルールがない状態で販売が継続することです。それは規制派はもちろんのこと、推進派も望んでいないことだろうと思います。安全なネット販売ができる環境づくりが、事業発展の礎となることを理解しているからです。

 この期に及んでは、政治判断で暫定ルールを入れていくしかないのだろうと思います。その想定のもとに指摘したいのは、検討会においても、ほぼ全てのメンバーが合意できていた重要な点がいくつかあったということです。私はそれらを実行するだけで、(ルールがないよりは)かなり安全性が高まるのだろうと思っています。例えば次です

(1) 有資格者がネット販売する場合には厚労省に届け出すること。
(2) 厚労省は届け出があった有資格のサイトを公表し、届け出なく営業している業者の特定を容易できるようにすること
(3) サイトには、販売の責任者たる薬剤師の氏名を明記すること。販売後も双方向に相談できる連絡先を用意すること。

 これらのことをやるだけで、違法に販売する事業者などを特定することが容易に特定できるようになります。正規事業者のリストが整備されれば、第三者機関による認証などが可能となり、消費者がより丁寧に説明責任を果たす優良事業者を見つけやすくなります。

 そのような、できることから、まず導入して、現在の無秩序状態を少しでも改善したいのではないでしょうか。

 焦点となっている、医薬品のリスク分類と、ネット販売を許容する範囲を関連づける件については、無理筋だと思っています。医薬品にはリスクの高いものと低いものがあって、それによって1類から3類までの分類がなされています。そして、リスクが高いものについては、使用者へのより丁寧な説明が必要だ、というところまでは、構成員のほぼ一致した見解です。しかし、リスク情報の伝達能力においてネットの方が低いという根拠ない思い込みに基づいて、リスクの高いものについてはネットはダメ、ということにしてしまうのは論理の飛躍です。
 対面を含む各種情報伝達メディアに、得意、不得意があることは事実です。しかし、ネットだから説明能力が低いと一律に断じてしまうと、話がおかしくなってしまいます。他のお客が待っているのを気にしながら、口頭で説明を受ける対面方式よりも、さまざまなサイトを検索しながら、説明をじっくり検討できるネットの方が情報伝達手段として有効と考える方がむしろ自然でしょう。ですから、リスク分類とネット販売可否を直接結び付ける手法でルール化をしようとすると、また訴訟-違憲判決-ルール欠如状態、というサイクルを繰り返すことになると思います。そんなことをしては、不毛な以上に無責任です。

 より現実的な安全ルールを急いで導入しましょう。

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一般医薬品インターネット販売検討会

「一般医薬品インターネット販売検討会」が始まりました。構成員として良い議論になるように貢献したいと思います。次は事務局に提出して、席上配布していただいた國領意見です。メディアの方々などから見たいとご要望いただいたので、ここに出します。厚生労働省に提出したPDF版もつけておきます。

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平成25年2月14日

一般医薬品インターネット販売検討会開始にあたって

國領二郎

 2009年の「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の議論に参加させていただいた経験などから、議論の運び方について、次のご提案を申し上げます。

1. 議論を合意できるところから積み上げること。

たとえば次のような点については、合意形成がしやすいのではないでしょうか?

(ア) 一般医薬品服用には副作用リスクがあり、販売にあたって適切な管理が必要であること
(イ) 一般医薬品服用を取り巻くリスク管理にあたっては、リスクの存在及びその内容を、薬剤師から服用者(服用者に判断能力がない場合には保護者あるいは後見人)に、適切に伝達する「リスクコミュニケーション」を行うこと。
(ウ) 適切なリスクコミュニケーションを前提に、自らの判断で服薬を行う「セルフメディケーション」を行うこと
(エ) 一般医薬品のリスク情報の服薬者への伝達は(直接の伝達者が登録販売者であったり、ネットのページであったり、服薬者の代理で購入した関係者であったとしても)、薬剤師の管理と責任のもとに行われるべきであること

これらのような原則について合意が成立すれば、次にそれらの原則をどのようにして実現すれば良いか、という議論に移ることができます。逆に、基本的な事項について合意がない中で、拙速に販売の手法や範囲をめぐる議論を始めると、不毛な綱引きになったり、整合性の取れない議論になったりする可能性が大きいように思います。

2. 2009年以降の技術や社会変化を反映した検討を行うこと

 たとえば、スマートホンを利用したお薬手帳の電子化などによって、服薬(購買)履歴管理を行いうる可能性が大幅に高まっています。技術的には一般医薬品と処方薬の服薬一元管理なども可能です。これによって薬の、のみ合わせの危険警告や、大量購入者への警告なども行いやすくなり、服薬のリスクを低減させることができます。一方で、それを実現するためには、薬剤師や販売者に刑法に定められた守秘義務(プライバシー保護)を守っていただく必要があり、その運用ルールが求められます。新しい技術のもたらす安全な服薬の可能性を活かすルールづくりをめざしたいところです。

以上


「25214v2.pdf」をダウンロード

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IT戦略本部に意見書

IT戦略本部が「持ち回り」で開催されることになり、出席するかわりに次のような意見書を出しました。リアルには開催されず、ちょっと寂しい。
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平成23年7月11日

新たな情報通信技術戦略 工程表の改訂にあたって(意見)
國領二郎

 第55回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部会議開催にあたって、意見を申し上げます。

1. 情報連携基盤に広がりと利便性を与えるべく、制度設計に積極的にかかわっていくべきである
 現在、税と社会保障の一体改革の文脈で「番号」制度が議論され、その一貫として情報連携基盤のあり方が打ち出されている。プライバシーを守りながら情報連携を実現する基盤は税・社会保障だけでなく、自治体の住民サービスなど、行政サービス全体にかかわる重要なものである。また、民間にも接続を許し、たとえばマネーローンダリング防止の身元確認や、青少年保護のための年齢認証などに活用することによって、安全で利便性の高い情報社会を構築することも可能となる。情報連携基盤がそのような広がりを持つものとして発展するように、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部としても受け身とならずに制度設計段階で、積極的に関わりをもつべきである。
 意見を言うべき例をあげるならば、2011年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部から出された「社会保障・税番号大綱」には、セクトラルモデルを活用して、多様な組織の保有する情報を連携する可能性が示されているが、これを自治体や民間にとって、使いやすく利便性の高いものとしたい。そのために、たとえば①マイポータル運営の民間への開放、②マイポータルへアクセスする際の認証方式を政府が発行するICカードのみに限定せず、アクセスする情報の必要なセキュリティレベルによって多様なもの-民間が提供するものを含めて-を許容する、といった意見を出すべきである。この二つによって、たとえば(ア)国民がスマートフォンを使って民間(携帯電話会社など)が提供するマイポータルにアクセスして、自身の年金の払い込み状況を確認したり、(イ)被災者が地元の病院での自身への投薬履歴を呼び出して避難先の医師に見せたりする、といったことが可能となる。いずれも現在の大綱のまま法制化されると実現できなくなってしまう可能性が高く、利便性の低さから普及が進まないといった事態が想定される。
 上記を含む意見を出す際には、自治体や企業など、現場の意見を十分に聞きたいところである。制度設計的には小さいと思われる点が、システムコストや現場負荷の大幅増大をもたらすことが多いのが情報通信技術分野の特徴である。今回の番号制度では特に自治体の負荷が大きくなるものと思われ、十分な対話が必要である。

2. オープンガバメントのさらなる推進を
 福島原発事故は、情報開示のあり方を改めてクローズアップさせた。政府保有データの二次利用可能な形式での開示など、本部が推進してきた取り組みの範囲を広げ、よりシステマティックに推進すべきである。これは単に開かれた政府を実現するだけでなく、情報を国民や企業にとって利用しやすい「資源化」を行うことにつながり、活力ある情報社会への道を拓く取り組みともなる。

3. 世界潮流と主戦場に目を向けた戦略を
 いま、世界の情報通信技術は①世界をカバーするクラウドコンピュータネットワーク、②クラウド上で様々なサービスや権利処理、認証などを行うプラットフォーム、③利用者のモバイル端末の上で全てのメディアを統合しつつあるブラウザ-特にHTML5規格-などが競争力を分ける主戦場となっている。そして、情報を自社のプラットフォームに誘導して蓄積しようという「情報資源の囲い込み」ともいうべき競争が激烈となっている。残念ながら日本はそのいずれにおいても主導権を握るどころか、プレゼンスがほとんど見えない状態になっている。
 情報通信技術戦略はそのようなメガトレンドの中で、日本のシステムをどのように進化させていくか、日本の情報産業を主戦場で主導権を握れるプレーヤーとさせるために、どのように復活させていくかを示す骨太なものとして必要なら見直し、進捗管理すべきでないか。

以上

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次に向けての考え方(仮説)

仮説:機能・リスク分散が重要。東京に機能集中しすぎていて危ない(この際、道州制を入れるべき?)。危険なシステムを集中させ過ぎると何かあると大事故になりやすい。

仮説:情報の信頼性モデルの変化に注意。「一元的公式情報」の時代は過ぎ、多元的情報の相互チェックによって信頼性を確保する時代になっている。

仮説:外からの応援を受けやすいオープンシステム(ハード・ソフトだけでなく組織なども)が重要。受けにくいシステムは想定外の状況でもろい。

仮説:絶対安全は存在しない。リスクの所在を常に多くの目で確かめ、顕在化時の対応を考えておくことが安全への道。

仮説:ガバナンス改革が重要。民も官も責任と権限のはっきりさせない組織風土のままでは、対応が遅れるばかり。リーダーにしっかり権限を与えてなすべきことをなせるようにしてから、きっちり結果責任を問おう。

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NTTの歴史的敗北

光の道に関する報告書が提出され基本方針が了承された。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000094716.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/global_ict/38282.html

どうやら、ここまでで、私はタスクフォースお役ご免のようなので、失礼して自由にコメントさせていただきたい。

世間ではこの報告がソフトバンクの敗北で、NTTの勝利であるように受け止めている向きが多いように思う。しかし私は、これはNTTの歴史的惨敗だと思う。ソフトバンクが勝利したともいえないので、勝ったのは統制経済が好きな人々なのだろう。

注目すべきは、次の三点である
(1)ファイヤウォール強化を「アクセス網及びこれと一体的に設置される中継網」を対象としたこと。
(2)ユニバーサルサービス対象を(ブロードバンドではなく)「光IP電話」としていること
(3)八分岐単位のアンバンドルを事実上要求していること。

NTTにとって「歴史的」惨敗という表現をさせていただいたのは、今まで不可欠設備としての規制対象になっていなかったIP中継網が今後、「アクセス網及びそれと一体として設置される」ものについては不可欠設備として規制対象となるとされているからだ。しかも、その具体化として、「ファイアウォール措置としては、ボトルネック設備保有部門と同利用部門との間での物理的な隔絶、情報管理システム上のアクセス制限等による厳格な情報遮断措置その他適正な競争関係を確保するための体制の整備や実効的な監視の仕組みを検討する」とされている。

このくだり、実は、11月30日に筆者も出席した会議に出た原案では、「これと一体的に設置される中継網」という表現が抜けていて単に「アクセス網+中継網」となっていた。つまり、(競争状態にあるものを含めた)NTTが保有する全ての中継網が規制対象になりそうだった。さすがにそれはやりすぎだと思って発言し、「アクセス網及びそれと一体として設置される中継網」と限定していただいた。しかし、それでもこの規制は極めて強いもので、具体化の在り方として「物理的隔絶」をうたっているということは、今後NGNサービスはインターネットサービスと物理的に隔絶させて提供しなければならないということになる(さすがにそれは無茶なので、今後緩めていくことになるのだろうと思うが)。

ユニバーサルサービスについて「光IP電話」を対象とし、このサービスを持ってメタル電話を撤去してよいとしていることも、奥深い。これは、電話料金の値上げを受け入れるとは考えにくい利用者のことを考えると、光ファイバによる電話サービスを現在の電話サービスの基本料金(NTT東の場合、住宅用1450円から)で提供することを意味している。そして論理的に考えると、光IP電話に使っている設備の光ファイバアンバンドルは当然1450円以内で行われることを想起させる。つまり、ソフトバンクの主張する1400円での光ファイバ提供を事実上やれ、といっているのに近い。これをやるとすると、分岐単位でやるしかない。

さらに深読み(しすぎかもしれないが)して、光IP電話の網イコールNGNと理解すると、それをインターネット網から隔絶させ、基本料金1400円程度で提供しろというのは、つまりNGNを光PSTN網としてのみ存続させろ、といっているに近いように思う。

報告書全体の精神は、競争を通じた光の道実現を求めているので、競争原理を重視しているともいえるのだが、このくだりに限って言えば、極めて統制色強いものとなっている。ちょっと極端な言い方をすると、網を国家管理下におくような話に近い。

NGNを光アクセスと一体的なものとして開発してしまったNTTの自業自得とも言えるのだが、NTTに(民間企業としては)死ねと言っているのに近いと思う。このまま実施されてしまうくらいなら、資本分離をして自由を獲得したほうが、NTT株主にとってかえって良いとも思う。

さすがに今後の具体化の中で配慮がなされることと思うが、注意深く見守っていきたい。この国の自由経済を殺してしまわないようにするためにも。

(平成12年12月14日に書いたものを15日に微訂正)

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光の道(NTT経営形態)決着は資本市場で

いろいろな方から私の考え方を聞かれるので、先日ICTタスクフォース合同部会に提出した意見書を次にアップロードしました。


「ict20101122.pdf」をダウンロード

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民主党IT戦略議連

民主党のIT戦略議連に呼んでいただいて、1時間弱お話をする機会をいただきました。短時間で話すために、思いを圧縮した「デジタル成長戦略」2ページ資料を作りました。共有させていただきます。
「digitalgrowth.pdf」をダウンロード
加えて、多くの方のお力を大量にいただいた、昨年度の重点点検専門調査会の資料 (http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/juuten/dai3/siryou1-2.pdfの中から資料4を抜粋したもの)と、アクセンチュアさんが昨年作って下さった資料を持ってまいりました。我ながらだんだん話すスピードが速くなっていくのを感じる、大忙しのプレゼンになってしまいましたが、質問もたくさんいただけて、関心の高さがうかがえて嬉しく思いました。ご協力いただけたみなさまに心からお礼申し上げます。

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光の道の整備のしかた

 国営会社による光ファイバ整備に反対すると書いたら、いろいろな方に「ではどのように整備するのか?」とおたずねいただいた。確かに反対するからには代案を提供しないといけない。まずはざっとスケッチしてみたい。

(1)基本ポリシー
 日本の全ての場所に2系統のブロードバンドアクセスを用意する。2系統とするのは、災害時などを考えるとバックアップが必要だからだ。

(2)徹底した「相乗り」の推進
 ここがポイントなのだが、上述の2系統のアクセスについて徹底的した相乗りを推進することが重要だと思う。「ブロードバンドがない」と言っている過疎地に行ってみたら、実際は河川管理や行政用や電力用の光ファイバが敷設されている場合が多い。日本の中に光ファイバが実際に全くない村を探す方が難しいのではないかと思っている。これからは放送用にひかれている場合も多くなるだろう。
 ところが、それらが制度的な壁に阻まれて、民間のインターネット用には使えなかったりする。本来の目的で満杯なのなら仕方がないが、実際には、光ファイバが束でケーブルに収容されている中で、何本も芯線が未利用で余っていたりする。セキュリティが理由になっている場合も多いが、技術的な根拠がない場合が多い。
 この国には地デジ、電力管理、行政、防災、インターネットそれぞれのために、それぞれの事業体が光ファイバを過疎地に敷設して回るような余裕はもうないはずだ。それなのに、現実には、縦割り組織と縦割り制度のせいでそれがおこっており、無駄以外の何物でもない。その是正をして、敷いた光ファイバ徹底的に多用途利用することを徹底するだけで、採算性が向上して、民間による問題解決も進展するはずだ。

(3)公設民営モデルなどの活用
 それでもなお、ない場所について、公費が投入されたり、ユニバーサルファンドを活用することはあってもいいと思う。上述の河川管理用のファイバの民間活用なども、公設民営の例ともいえる。

(4)NTTをめぐって
 問題は「光」ユニバーサルファンドや公設民営モデルをNTTが活用する場合だろう。公費によってNTT独占度が高まるという批判がある中で、分割論が出てくるのだろうと思う。オープン化、レイヤ化を長年主張してきた國領として、構造分離を必ずしも否定しない。積年のうらみから、政治の力を使ってそれを実現してしまいたいと思う競争事業者の気持ちも分からないではない。ただし、上場会社を国家権力の強制で構造分離するのは、独禁法違反などが司法の手によって明らかにされた場合に限らないと、この国の資本主義はめちゃくちゃなことになる。それよりは、NTT自らの手で、物理層の保有と管理を行う「NTTインフラ会社」とネットワーク設備の保有と運営を行う「NTTネットワーク会社」に再編していただき、公設光ファイバの保守管理の委託「競争入札」にあたっても、物理層とネットワーク層で別々に応札していただくようなイメージをおいかけたい。

ちょっと舌足らずな記事かもしれないが、本日はとりあえずここまで。

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